作成日:2011年09月04日 訪問日:2011年08月28日
23番札所 医王山薬王寺
前夜、三人で今日の秘密会議を行った。
夕食を食べながら(もちろん不良になった三人はビールを飲みながら)、日和佐駅午前10時45分発の電車に乗るには、遅くとも二十三番札所へは10時までには到着しなければならない。時間を逆算すると、健脚の二人は朝6時に出れば間に合う…私はどうかなぁ。遅れたらソンちゃんの飛行機に間に合わなくなってしまう。のろまな亀の私の足は責任重大だ。
当初、私も二人と共に徳島駅に戻り、自宅へ帰ろうと考えていた。しかし、これまで出会ったすべての方が先に進めと私の背中を押しているように感じた。
私はこの夜、二人を日和佐駅で見送り先に進むことに決めたのだ。
私の足が遅ければ、二人に先に行くよう説得したが、二人はあくまでも三人で薬王寺までゴールしようと言う。もう覚悟を決めて着いて行くしかないのだ。
結果、朝5時に宿を出発することにした。
私が日和佐駅で二人を見送った後、先に進むことを話すと、不良遍路さんが「一緒に徳島駅まで行こうよ~」と言う。ん~、遠い。でもソンちゃんをギリギリまで見送りたい気持ちは確かにある。二人が私を見る、その目が何十年来の親友のような、優しく潤んだ瞳に思えた。などと考えていると不良遍路さんが「徳島駅近くに美味しい鯛めしがあるからお接待してあげる」とおっしゃるではないか。
私は決意した「行く行く~鯛めし♪鯛めし♪」単細胞だ。
ここで思わぬ女性に再会した。焼山寺で共に苦労を分かち合った女子大生のツヅラちゃんだ。二人で再会を喜び、ソンちゃんと不良遍路さんに紹介した。
こうして四人の夜は更けていくのであった。
早朝4時45分、準備を整え玄関に出ると、既に不良遍路さんがいた。朝寝坊さんの彼が奇跡を起こしたのだ。これも大師様のおかげか。
予定よりも早くの出発となった。
日の出前、まだ外は真っ暗だ。ライトを持っていなかった私達は目をこらし、僅かに見える遍路マークをたどり前へ進んだ。
民家を抜け、山道に入る。午前5時20分を過ぎるとだんだん空が白みはじめる。
うっすらと雲が広がり、空の青、雲の白、朝日の赤そして山々の緑が織り成すコントラストが美しく、清々しい気持ちにしてくれる。おもいっきり深呼吸した。
よし!頑張ろう。そう心に決め、初の先達の位置についた。
無言でガシガシ歩く。今までの私には出来なかっただろう、立派な健脚ぶりだ。舗装された道をしばらく歩き、竹やぶの山道を上ると国道に出た。この国道を一直線だ。
札所までの道程は2つあり、山側、海側の選択だ。私達は距離を優先し、山側の星越トンネルを抜けるコースにした。
出発してから1時間、東屋があったので休憩することにした。
前日買っておいた、みかんと桃を二人にお接待した。甘くて美味しかった。ここまでは時速6キロで順調な滑り出しだ。また立ち上がりガシガシ歩く。
次の休憩は星越トンネルを抜けたところにある星越茶屋だ。ところが、星越茶屋はなく、一軒の古い食堂があった。
既に1時間以上歩いていたので朝ごはんをいただくことにした。ぶっかけうどんを注文、ソンちゃんがお接待してくださった。
ここで薬王寺の宿坊に電話し、私と後から来る女子大生のツヅラちゃんの宿泊予約を入れた。宿坊の名前が『IKKO』というらしい。どんだけ~って感じの名前だ。
宿を出て歩くこと3時間半、ここまで快調に時速6キロで駆け抜けてきた私は、ついに明日のジョーのように真っ白な廃人になった。もうふらふらだ。足は上がらず、肩が猛烈に痛い。
二人が私を気遣う。
私を置いて先に行くよう勧めるが、ガンとして一緒に行こうという。まだ数キロある。
不良遍路さんが私のザックを持つと言う、ソンちゃんが肩を抱えて支えてくれようとする。
情けない、本当に私は情けない。ザックは自分の欲深さの重みなのに、それさえも人に頼るだなんて…歯を食い縛って「大丈夫!まだ行けるよ」二人に言うというより、自分自身に言い聞かせ二度と足を止めないと誓った。
先達を入れ代わり最後尾を歩く。休憩する場所もない山の中の国道を容赦のない日射しを受けながら歩く。
私はこれまでたくさんの人々に励まされ、支えていただいた。だけど自分はどうだっただろう。何もしていない自分が許せなかった。これからは、この二人のように人を気遣い、支えられる強い人になりたい、そう心に決めた。
街中に入り、とうとうゴールの二十三番札所に到着した。すごく大きいお寺で、観光客もたくさん来ていた。時刻は午前9時40分、間に合った。
足を引きずりながらお参りを済ませ、大師堂で二人に巡り合わせていただいたこと、二人の行く末が素晴らしい人生になるようお願いした。
ここから日和佐駅までは2分。余裕を持って電車にのることができた。
電車に乗り、トイレで白装束から俗衣装に着替えると、不良遍路さんがスダチサワーとおつまみをお接待してくださった。午前中からお酒だなんて本当に悪だ。ありがたくいただき、乾杯をした。
電車に乗ること2時間弱、徳島駅に着いた。ソンちゃんを高松行バスに乗せ、見送った。
別れ際、彼女から手紙をいただいた。
彼女とは寝る時、お風呂の時、すべて一緒に行動をしていたのに、いつの間に書いてくれたのだろう。
バスのガラス越しに手を振る彼女が愛おしくて仕方がなかった。走り去るバスをずっとずっと見送った。きっとまた会える、そう信じてお別れをした。
不良遍路さんが早速鯛めしのお店に連れて行ってくださった、が、お休みだった。近くの中華料理屋さんに入り、お疲れ様会をすることにした。もちろん、ビールで乾杯だ。
私がソンちゃんからいただいた手紙を読もうとすると「お願いだから手紙読んで泣かないでね、周りから変に思われるよ。」そう言って笑う彼の優しい気持ちが痛いくらいわかった。
これまでの想い出を話しながら、楽しく最後の食事をした。
彼が乗る東京行きの飛行機にはまだ時間があったけど、私の電車の時間を考えてくれ、逆に見送ってくれることになった。
別れ際、彼から小さな袋を渡された。中にはいつの間に買ったのか、携帯用のライトが入っていた。朝早く出る時にはこれを使ってねと言う彼の笑顔と別れるのがとても辛かった。
彼の姿が見えなくなるまで、何度も何度も手を振った。
一人電車に乗り、過ぎ去る徳島駅を眺める。一度に二人の大切な親友とお別れしなければならない。
とても辛いが、それぞれ戻るべき場所があり、それぞれの人生を歩まなければならない。
彼女からの手紙を読んだ。「あなたの笑顔がみんなを幸せにしてくれた」そう書いてあった。
トンネルに入る、入り口がだんだん小さくなり暗闇に飲み込まれた。
泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ、呪文のように唱えたが涙が溢れた。
たくさんの想い出をくれた二人と共に、私はこの先を歩もうと思う。
長いトンネルを抜けると眩しい世界が広がった。現実の世界だ。行かねばならない。
日和佐駅に再び降り立ち、宿坊に入ると伊吹ご夫婦が迎えてくださった。やっぱりこのご夫婦に会うと安心するのだ。二人を見送ったことを報告し、部屋へ行くとツヅラちゃんが既に到着していた。
この宿坊の隣には真新しい温泉施設があり、とても快適だった。
同じ宿で小学3年生の可愛いお遍路さんのお父さんに再会した。学校が始まるので奥様と自宅に帰し、一人で回っているという。長崎から来た山下さんだ。
皆で夕食をいただいた。
その席に、東京から来ている宮本くんがいた。名前と噂はかねがね聞いていた。彼も私の噂を聞いていたらしい。
とても無邪気に笑う可愛い男の子だ。伊吹ご夫婦が宮本くんに「この先、彼女のことを頼むよ」と言ってくださった。
挨拶をし、お遍路談議をしながら美味しく夕飯をいただいた。
食事が終わってから、私の部屋に山下さん、宮本くんが集まり明日からの行動計画を立てることになった。
すっかり打ち解けていたのには私自身も驚いた。
特に宮本くんには何か不思議な縁を感じてならなかった。
予感通り、この先彼と共に歩むことになるのだ。
最後の夜(右がソンちゃん)
三人で歩んだゴール薬王寺
おはよう。別れそして出会いまるで青春時代に戻ってるみたいやな。二人の写メ本当に40代?20才位にしか見えませ~ん。冗談はさておいて(笑い)
私も遂に今日大阪を出発しました。今は高速バスの車中で鳴門西に行きます。ちょうどなすび猫さんと入れ替わりですね。私もも道中記書けたら書こうかな。なすび猫さんお疲れ様でした。そして行ってきます。なすび猫さんでも歩けたんだからと言う気持ちで頑張っきます(笑い)失礼しました。気を付けて帰って下さい。
そしてアドバイスも下さいね。先輩!
ezweb.ne.jp
案山子さんへ
台風の影響で昨夜も帰れず、2日間の足止めとなりました。今朝早くの南風に飛び乗り、間もなく岡山です。
いよいよお遍路さんですね。きっと素敵な出逢いがあると思います。
そう、私にも歩けた道だから、きっと大丈夫。
私も応援していますね。
骨折の後ですから、身体にきをつけて無理せず歩んできてください。
応援してくださって、とても心強かったです。本当にありがとうございました。
日記、楽しみにしていますね。
docomo.ne.jp
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