作成日:2011年09月28日 訪問日:2011年09月26日
36番札所 独鈷山青龍寺
35番札所を終え、苔蒸して滑りそうな急坂を下る。
これまでの旅で、まだ転んだり、コケたことがない。慎重を期さないと、一度コケたら、際限無くコケてしまいそうだ。
ズルズル滑りながらも、やっとのことアスファルトの道路へたどり着く。
土佐インター付近まで歩いた時点で、時刻は午後3時。
三十六番札所までは、10キロ以上ある。地図を見ると塚地峠を越えないといけない。完全に無理である。
宿は、はりまや橋近くのホテルのため、バス停で帰りの時刻表を確認しながら、少しでも先に進むことにした。
方向音痴な私は、いつものごとく、地図をぐるぐる回し、尚且つ、自分もぐるぐる回りながら歩みを進めた。
もうどっちを向いているかも分からない状態だ。
歩けど、歩けど、一向に遍路シールを見つけることが出来ない。焦りは募るばかりだ。
ヤバイ…これでは、ここはどこ?私は誰?状態だ。
すると、横をおじいちゃんが通りすぎた。近くにバス停がないか聞いてみることにした。
おじいちゃんと二人、遍路地図を見ながら、高知駅方面に走る最寄りのバス停を教えていただいた。
お礼を言い、バス停で時刻表を確認することにした。
バス停に着き、時刻表を確認しようとするが、地名が分からず、高知駅を通るのかどうかさえも分からない。
なんやかんや独り言を言いながら、悩んでいると、一台の車が私の居る歩道に突っ込んできた。
びっくりして運転席を見ると、先ほど道を教えてくださったおじいちゃんだ。
『買い物に行こうと思ってたが、あんたの事が心配やけん、家に車取りに戻っちょったよ』とおっしゃる。
私を三十六番札所まで送ってくださるとお接待を申し出てくれたのだ。
完全歩きお遍路としては、乗るわけにはいかない。
どうしよう、迷っていると『早く乗りなさい、納経間に合わんけん』
以前会った仙人様のお言葉を思い出し、ありがたくお接待を受けることにし、車に乗り込む。
おじいちゃん、急発進、そして急加速だ。
運転が超荒い。
赤信号も突き進み、ヒヤヒヤなのだ。
何度も『あー!危ない』と叫んでしまった。
そんな私を横目に、おじいちゃんはお構い無しで我が道を突き進む。
午後3時45分、荒れ狂う車内の中、三十六番札所へ到着したのだ。
明日も良ければ次の札所まで送ってくださると言う。
そこまではお受け出来ないし、甘えるわけにはいかないので、丁寧にお断りし、お礼を言い、ここでお別れすることにした。
『気を付けていかないけんよ』と何度も言ってくださった。
『おじいちゃんは、運転気を付けてくださいね』と私は何度も言い返した。
とっても親切なおじいちゃんだった。ありがとうございました。
参門をくぐり、本堂へ続く長い階段を登る。
ここは前回、宮本くんに車で下見に連れてきていただいたお寺。とても懐かしく感じている自分がいた。
本堂で、先ほどのおじいちゃんの交通安全と無病息災を祈願した。
無事にご自宅に帰ってくれるといいのだが…心配である。
続いて、大師堂で、これまで遍路旅で会った方達すべてのご多幸をお祈りした。
納経所でご朱印をいただいた後、高知方面のバスがないか聞いてみると、5時のバスが宇佐から出るとおっしゃる。
宇佐のバス停はいま来た道を戻り、宇佐大橋を渡らなければならない。所要時間は40分以上だと言う。
時計を見ると、午後4時10分だ。
いかん、間に合わない。
急いで荷物をまとめ、お礼を言いいながら早歩きで立ち去る。
もう足がマンガのように、ぐるぐる回っているように周りから見えるくらいの勢いで早歩きだ。
猛スピードで歩いていると、道端で談笑していたおばあちゃんに呼び止められた。
『どうした、そんなに急いで』
私は、口をパクパクしながら
『ば、バス停に、間に合いません、です』
もう日本語になっていない。
日本語が話せない私を見てただならぬ空気を感じたのか、おばあちゃんが
『慌てんでよか、車乗せちゃるけん、こっち来なされ』
手を引っ張られおばあちゃんの車に押し込め乗せられた。
『若い女の子が困っとるのを見過ごせんけん、つかまっとき』
口パクパクのまま、宇佐のバス停へ行きたいと身振り手振りで話すと、おばあちゃんは車を急発進。
センターラインを跨いで走る。ブイブイ言わせる勢いでアクセルを踏み抜いた。
あっという間にバス停へ到着したのだ。
何度も何度もお礼を言った。おばあちゃんの車はブイブイ言いながら走り去る。
見えなくなるまで手を振って見送った。
まさに高知の『はちきん』おばあちゃんだ。
早くバス停に着いたので、今度は30分暇になってしまった。
すると携帯電話が鳴る。
現在38番札所を打ち終えた兄貴遍路さんからだった。
今日は朝から雨だったので、どうしているか心配してくださり、電話を架けてきてくれたのだ。
今日はいろいろな方から心配される1日だ。
しばらくお互いの状況などを話した。
兄貴遍路さんに車のお接待を受けてワープしたことを話すと、悪い人もいるから充分気を付けるよう注意された。
電話を切ると程なくしてバスが来た。
乗車一時間ではりまや橋まで帰ってくることが出来たのだ。
あれよ、あれよ、という間に順調に帰ってきてしまった。
これもすべて大師様のお計らいか。有り難過ぎる。
ホテルに帰ると夫から帰還命令がくだされた。
いつになく、ただならぬ雰囲気だ。
だいたい察しはつく。
二週間のつもりで今回出てきたが、これまでかもしれない。
何とか37番札所までは打ちたい。そう夫に懇願した。
今週末に帰ることを約束せざるを得なかった。
これで、私は結願することが出来ないかもしれない。
私の最後の札所は37番岩本寺になるのだろうか。
そう感じずにはいられなかった。
でも、岩本寺が最後になるとしても、最後まで笑顔で歩こうと思う。
今、私に出来ることはそれだけだ。
古く歴史を感じる青龍寺
本堂へ続く階段、左手に滝修行場があった
道中記へのコメントは、ログインが必要です。